創作小話『できない理由を述べてはいけないと主張した者』

 ブロガーのAさんが主張しました。
 「世のニセ科学批判者たちは、ニセ科学信奉者の全員と一人残らず対話して、次々と相互理解を達成すべきである」
 「たとえ相手が頑固なニセ科学信奉者であっても、相互理解が達成するその日まで、対話の場から離脱してはいけない」
 「なぜならば、そのような決まりを私が作ったからである」

 すると、穏健派のニセ科学批判者を名乗るBさんが現れて言いました。
 「私も以前は似たような考えを持っていました」

 「頑固なニセ科学信奉者たちに語りかけて相互理解に達する試みを、753時間ネットに張り付いて続けました」
 (注記:753時間の理由:753=なごみ=和み=温和なニセ科学批判、という発想で決定した対話時間)
 「その結果、」
 『納得じゃのう、わしは効果を期待して山ほど購入したが、どれも科学的にデタラメな機器だったんじゃのう』
 「という台詞を述べてくれた人は、ゼロでした」

 「現在の私は、」
 『軽い気持ちでニセ科学を支持している人との対話を優先しよう』
 『それが自分のリソースを無駄に消費しない効率的なニセ科学批判だ』
 「という考えで行動しています」

 Aさんは反論しました。 
 「できない理由を述べてはいけない
 「B氏は過去に対話した頑固なニセ科学信奉者たちのところに再び赴いて、相互理解を達成せよ」
 「そのあとは、他の頑固なニセ科学信奉者たちのところに転じて対話して、相互理解を達成せよ」

 Bさんは問いました。「そこまで仰るAさんは、頑固なニセ科学信奉者たちの全員を納得に導く策をお持ちでしょうか?」
 「お持ちならば、ぜひとも教えてください、その策を採り入れて動きます」

 Aさんは答えました。
 「この私は、ニセ科学批判者たちに示唆を与える立場の者である」
 「ニセ科学批判の具体的な戦略を練る立場ではない」
 「よって回答は、『策は提示できません。というか、そもそもありません』となる」

 これを聞いたBさんは、一瞬だけ怒りを覚え、
 『お前のブログの過去記事を、すべて読んでやろうか……』
 『科学的に不正確な記述を続々と見つけて、片っ端から修正してやろうか……』
 『お前も吊るし上げにしてやろうかっ!』 

 とネットモヒカンモードに成ろうとしましたが、穏健派のニセ科学批判者を名乗っていたこともあり、
 「ここで芸風を変えると私の評判も変わってしまう」
 「ヒャッハーな支持者たちが増える事態になる」
 と考えた末に、「お答えいただきまして誠にありがとうございました、完全に納得しました」と言って帰りました。

 Aさんは勝利宣言しました。「B氏はお礼を述べて帰った、よって私の言動に何ら矛盾はなかったという理屈になる」

 【教訓】このように見知らぬ他人に向かって、「できない理由を述べてはいけない、できる理由のみを述べること、それが建設的な議論だ」と意見する人も、うっかりできない理由を述べたりします。
 それを踏まえて拝聴すれば、「一理あるけれど、この人に言われたくないな……」という気持ちが消えて楽になります。